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千葉地方裁判所 昭和54年(ワ)572号 判決

原告

滝沢祐正

被告

有限会社上総自動車

ほか一名

主文

被告らは連帯して原告に対し金五九〇万三、九七一円および内金五四〇万三、九七一円に対する昭和五四年九月五日からその完済まで年五分の割合による金員を支払え。

原告その余の請求を棄却する。

訴訟費用は五等分し、その四を原告の、その一を被告らの各負担とする。

この判決は原告勝訴部分にかぎり仮に執行することができる。

事実

第一申立

一  原告

「一 被告らは連帯して原告に対し金四、〇〇〇万一、五五七円及び内金三、六三七万一、五五七円に対する昭和五四年九月五日からその完済まで年五分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。」

との判決並びに仮執行の宣言を求める。

二  被告ら

「 原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。」

との判決を求める。

第二随述した事実

一  請求の原因

(一)  原告(昭和四年一〇月二日生・男)は昭和五〇年一〇月二一日千葉市中央港一―一九―六先路上の丁字路交差点において原動機付自転車(以下、本件原付自転車という)を運転し新聞配達のため直進中、被告斉藤文雄の運転する普通貨物自動車(マイクロバス・以下、本件バスという)が右交差点の右方道路より左接して来て、本件原付自転車の右側面に前部を激突させ、その結果、原告に対し右大腿部切断の傷害を負わせた(以下、本件事故という。)。

(二)  被告斉藤は本件バスの運転に際し前記交差点内において前方不注視の過失により、民法七〇九条の不法行為責任がある。被告有限会社上総自動車(以下、被告会社という)は本件バスの所有者として自賠法三条による運行供用者責任がある。

(三)  原告は、本件事故により、次の損害を蒙つた。

1 治療費 金一〇万一、〇一一円

但し、原告が直接支払つた治療費

(イ) 三井記念病院分 金九万八、一三六円

(ロ) 宇賀整形外科病院分 金二、八七五円

2 通院交通費 金一九万〇、〇〇〇円

三井記念病院に一九日間通院した際のタクシー代

一九日×一〇、〇〇〇円(往復)

3 雑費 金六四万七、六〇〇〇円

(イ) 入院中の雑費 金五八万二、八〇〇円

六〇〇円(一日の雑費)×九七三日(入院期間後記7の慰藉料の関係参照)

(ロ) 文書料 金一万一、〇〇〇円

(ハ) 補装具代 金五万一、八〇〇円

4 看護料 金一三万五、一八〇円

(イ) 家族付添費 金一〇万七、五〇〇円

京葉外科診療所に入院中の昭和五〇年一〇月二一日から同年一一月三〇日までの四一日間及び宇賀整形外科病院に入院中の同五三年一月七日から同月八日までの二日間原告の妻が付添つた分 二、五〇〇〇円×四三日

(ロ) 職業家政婦付添分 金二万七、六八〇円

昭和五三年一月五日から同月一一日までの間家政婦山仁キエ子に支払つた分

5 休業損害 金五六八万六、五四四円

原告は本件事故当時朝日新聞千葉専売所に勤務していたが、本件事故により昭和五〇年一〇月二二日から同五四年二月一五日(一、二一三日)までの間治療のため休業を余儀なくされ次の通り損害を蒙つた。

422,000円(事故前3ケ月分)÷90日=4,688円(日額)

4,688円×1,213日=5,686,544円

6 逸失利益 金三、二六四万三、二四五円

原告は本件事故により右大腿骨開放性粉砕骨折の重傷を負い治療を重ねたが右大腿部股関節付近より切断を余儀なくされ、昭和五四年二月一五日切断による後遺症四級の症状として固定した。

現在では、朝日新聞の仕事も出来ず退職し就労不能の状態である。

2,815,300円×92/100×12.6032=32,643,245

(昭和52年度賃金センサス1巻(4級喪失率)(49歳より67歳まで1表全国男子平均賃金) 18年間のホフマン係数)

7 慰藉料 金一、六九八万〇、〇〇〇円

原告は本件事故により次の通り入通院を余儀なくされ、その精神的苦痛を蒙つた。

(イ) 昭和五〇年一〇月二一日~同五一年一月三一日

京葉外科診療所 入院一〇三日

(ロ) 昭和五一年一月三一日~同年一一月一〇日

三井記念病院 入院二八四日

(ハ) 昭和五一年一一月一一日~同五二年四月一〇日

三井記念病院 通院一五一日中実日数一一日

(ニ) 昭和五二年四月一一日~同年一二月一九日

三井記念病院 入院二五三日

(ホ) 昭和五二年一二月二〇日~同五三年一〇月四日

宇賀整形外科病院 入院二九〇日

(ヘ) 昭和五三年一〇月五日

三井記念病院 一日通院

(ト) 昭和五三年一〇月六日~同年一一月一八日

三井記念病院 入院四四日

(チ) 昭和五三年一一月一九日~同五四年二月一五日

三井記念病院 通院八九日中実日数七日

以上の通り入院は通算九七三日、通院は二四一日中実日数一九日の長期療養を余儀なくされ、その間の苦痛を蒙つた慰藉料として六〇〇万円、右足切断による後遺症四級の慰藉料として金一、〇九八万円が相当である。

8 以上のとおり、原告は、総計金五、六三八万三、五八〇円の損害を蒙つた。

9 原告は合計金二、〇〇一万二、〇二三円の填補を受けた。

(イ) 自賠責保険により金一、〇三〇万〇、〇〇〇円

(ロ) 労災保険より金六九四万九、六〇一円

(ハ) 加害者の既払分金二七六万二、四二二円

(1) 雑費分 金四〇万七、一七一円

(2) 休業補償 金二三五万五、二五一円

10 右填補された金額は、3雑費のうち金四〇万七、一七一円(したがつて残は二四万〇、四二九円)、5休業損害のうち金四五五万〇、二〇一円(休業補償費として金二三五万五、二五一円、労災保険による休業補償分金二一九万四、九五〇円)(したがつて残は金一一三万六、三四三円)、6逸失利益のうち金一、〇九二万四、六五一円(自賠責保険後遺症分のうち逸失利益分六一七万円労災保険による給付金四七五万四、六五一円)(したがつて残は二、一七一万八、五九四円となる)、7慰藉料のうち金四一三万円(自賠責保険の後遺症補償分のうち慰藉料分金四一三万円)(したがつて残は一、二八五万〇、〇〇〇円となる)にそれぞれ充当される。

11 したがつて、原告はこれを差引いた現在合計金三、六三七万一、五五七円(1治療費一〇万一、〇一一円、2通院交通費金一九万〇、〇〇〇円、3雑費金二四万〇、四二九円、4看護料金一三万五、一八〇円、5休業損害金一一三万六、三四三円、6逸失利益金二、一七一万八、五九四円、7慰藉料金一、二八五万〇、〇〇〇円の合算したもの)の損害を蒙つている。

12 弁護士費用 金三六三万〇、〇〇〇円

原告は本件訴訟を弁護士古屋俊雄に依頼し、その弁護士費用として金三六三万円を第一審判決時に支払う約束をした。

右費用も本件事故により生じた通常損害である。

13 よつて原告は被告両名に対し各自右損害額総計金四、〇〇〇万一、五五七円及び内金三、六三七万一、五五七円(弁護士費用金三六三万円を控除したもの)につき本訴状送達の日の翌日である昭和五四年九月五日からその完済まで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  答弁および抗弁等

(答弁)

請求原因事実中、(一)は認める。(二)のうち、被告会社が本件バスの自賠法三条にいう運行供用者であることは認める。被告斉藤の過失は争う。(三)について1ないし8は不知。ただし原告が治療上右肢を切断し、後遺症として自賠法四級五号に認定されたことは認める。8は不知。9について認める。10は不知。11は争う。12は不知。13は争う。

(抗弁等)

(一) 弁済

被告らは、原告らが受領を自陳する金員のほか、本件事故後原告に対し看護料として合計金三九万〇、二一四円を支払つた。

(二) 過失相殺

かりに、被告斉藤に本件事故に関して、何らかの過失があつたとしても、本件事故は、むしろ原告の後記過失と競合して発生したもので、原告の右過失は重大であるから、損害算定についての過失相殺の割合は、少なくとも六割と評価されるべきである。すなわち、本件事故現場付近は、海岸と千葉港を結ぶ幅員約八・七五メートルの道路と中央港二丁目方面に通じる幅員九・〇五メートルの道路が交わる丁字路交差点であるところ、被告斉藤運転の本件バスは、時速約三〇キロメートルの速度で中央港二丁目方面から同交差点に進行し、徐行して左折した。ところが、原告は、本件原付自転車を運転し、海岸方面から千葉港方面に新聞配達のために進行していたものであるが、本件事故直前、道路右側にある自転車競技会館に新聞を配達し、かつ、同方向に位置する竹中工務店に配達すべきであつたから同道路の交通量が少なかつたこともあつて、そのまま同道路センターラインの右側(対抗車線)を時速約三〇キロメートルで進行していたため、本件交差点を左折して右道路センターライン左車線を進行してきた線)を時速約三〇キロメートルで進行していたため、本件交差点を左折して右道路センターライン左車線を進行してきた本件バスとセンターライン内側〇・四二メートルのところで衝突したものである。また道交法一八条は車両の左側通行を定めている。そうとすると右センターラインの通行帯を無視し、対抗車線内を走行していた原告の過失は極めて重大であり、本件事故の主因とも評価できるのであるから、少なくとも六割と評価されるべきである。

(三) 治療長期化の事情

1 原告は「本件事故により右大腿骨開放性粉砕骨折の重傷を負い治療を重ねたが右大腿部股関節付近により切断を余儀なくされた」旨主張する。

2 しかしながら、原告の傷害を治療した三井記念病院では、昭和五二年七月ごろ、すでに原告の右患部に骨髄炎が併発し大腿部の切断以外に方法がないと判断して、手術をすすめていたにかかわらず、原告が勝手にこれを拒否した上、同年一二月一九日宇賀整形病院へ転院して治療したが快方に向わなかつた。そこで原告はふたたび三井記念病院に再入院し、昭和五三年一〇月一一日ようやく右手術を受療するに至つた。そうしてみると、原告の右肢切断に至る治療の経過には、原告独自の判断によつて約一年三カ月長期化した部分が介在し、その結果損害を拡大したことになるから、この点、慰藉料の斟酌事由として十分考慮せられるべきである。

三  抗弁等に対する認否

抗弁(一)弁済について三九万〇、二一四円の看護料の弁済については認める。しかし、右は職業家政婦の付添分であつて、本訴請求外のものである。

抗弁(二)過失相殺の主張について争う。被告斉藤は本件事故現場丁字路交差点に差しかかるまでの間、時速約三五キロメートルの速度で進行し、同交差点で一時停止を怠り、交差点右側方面よりくる車両の有無のみを確認したままで左方を全く確認しないまま時速約三〇キロメートルの速度で漫然と交差点内に進入左折しその際、本件バスの右前部角付近を対向車線内にはみ出したために自車走行車線内約五〇センチメートル内側を走行していた原告の本件原付自転車の右側面に激突させたものである。

右によれば、被告斉藤の過失は重大であり、本件事故は同被告の一方的過失によるものである。

(三)(治療の長期化)について争う。原告は担当医師の指示に従つたものであり、被告らのいうような事情はない。

第三証拠〔略〕

理由

一  請求原因事実中、(一)については当事者間に争いがなく、同(二)のうち、被告会社が自賠法三条にいう運行供用者であることは当事者間に争いがなく、被告斉藤に本件バスの運転者として本件事故について過失があつたことは、後記認定の事実から明らかである。

二1  請求原因(三)の1の事実は、いずれも成立に争いがない甲第八号証ないし第三三号証に原告本人の供述を総合すると認めることができる。

2  請求原因(三)の2の事実は、原告本人の供述により認めることができる。

3  請求原因(三)の3の事実のうち、(イ)の事実については、後記認定の入院日数と弁論の全趣旨および原告本人の供述によりこれを認めることができ、同(ロ)の事実は、いずれも成立に争いがない甲第三四号証ないし第三六号証と原告本人の供述によつてこれを認めることができ、同(ハ)の事実は、いずれも原告本人の供述により成立を認めることができる甲第三七号証ないし第四一号証に原告本人の供述によつてこれを認めることができる。

4  請求原因(三)の4の事実のうち、(イ)の分については、原告本人の供述によれば、原告主張の入院の間、原告の妻が附添つて看護していたことが認められるところ、本件事故当時原告の家族が附添つた看護料として一日金二、五〇〇円の割合による金員を損害賠償として認められることは社会通念上相当であると認められ、また同(ロ)については、弁論の全趣旨により成立を認めることができる甲第四二号証と原告本人の供述によりこれを認めることができる。

5  請求原因(三)の5の事実については、原告本人の供述およびこれにより成立を認めることができる甲第四三号証によつてこれを認めることができる(もつとも甲第四三号証によれば事故前三ケ月分の給与総額は金四二万二、〇五〇円であつて、原告の主張する金員より合計額において金五〇円多いことが認められるけれども、原告は本訴においてこれより少額を主張、請求しており、一日分として算出すると右は円未満であるからこれを切り捨てて計算するものとする)。

6(1)  いずれも成立に争いがない甲第一号証、第三号証ないし第七号証に原告本人の供述によれば、原告は、本件事故によりその主張のような傷害を受け、右大腿部股関節付近より切断を余儀なくされ、昭和五四年二月一五日切断による労災保障上後遺症四級五号と固定していることが認められる。

(2)  そこで、逸失利益の額について検討する。

ア 前出乙第一四号証、甲第四三号証および原告本人の供述によると、原告は、学校中退後職を数回変え、昭和四八年から朝日新聞千葉販売所に勤務し本件事故後の昭和五四年二月同所を退職したが、本件事故後勤務することができなかつたため、給与は支給されていないこと、本件事故当時の三ケ月間の給与実績は金四二万二、〇五〇円であることが認められる。

イ 本件のように、ある職場に勤務していた者が交通事故を原因として勤務先を退職することになつた場合の逸失利益の算定基準をどこに求むべきか、具体的な最後の勤務先における給与を基準とすべきか、それとも一般的な労働者の勤労能力喪失を基準とすべきかは、問題がないとはいえないが、本件の原告のように数回も職を変遷しているような場合には勤務先の具体的な給与を基準として逸失利益を算出することは必ずしも妥当でなく(一時的に給与が著しく低額または高額で雇傭されることもあり、これを基準とするのは問題である)、一般的な労働者の勤労能力喪失を基準として算出するのがより合理的であると思料する。

ウ そこで右の見解に立つて原告の請求の当否を検討する。

(ア) 本件事故(昭和五〇年一〇月二一日)当時、原告は四五歳であり、事故当時である昭和五〇年の男子全労働者の「きまつて支給する現金給与額」は(月)一八万五、五〇〇円であり、「年間賞与その他特別給与額」は七七万九、八〇〇円である(昭和五二年二月「交通事件における損害額算定に関する参考資料民事裁判資料第一一二号・第八表(二二頁)参照)。したがつて、年間支給総額は金三〇〇万五、八〇〇円である。

(185,500×12=2,226,000 2,226,000+779,800)

(イ) そして、四九歳時の就労可能年数の新ホフマン係数は一二・六〇三二(なお事故時の四五歳から昭和五四年二月まで(四九歳)までは休職損害として請求している。四五歳でも四九歳でも六七歳時まで就労可能なものと思料される)(前掲民裁資料一一二号一一三頁参照)であり、四級の労働能力喪失率は九二パーセントと解するのが相当である(前掲民裁資料一一二号一四表七四頁参照)から、これを基にして算出すると、三、四八五万二、〇八二円となる。

(3,005,800×92/100×12.6032)

これが原告が本件事故により蒙つた逸失利益である。

(ウ) なお、右金額は、原告の主張する金員より多額であるが、これは原告が本訴請求の当否の判断の計算過程において生じたものにすぎないから、このような計算過程の一段階において原告の主張より多い額を算出しても最終的に原告の申立金額を超えなければ処分権主義に反しないのはもちろん、弁論主義に反するものでもない。

7  前出甲第三号証ないし第七号証に原告本人の供述によれば、原告主張のとおり入院または通院していたこと(但し三井記念病院の実通院日数は一九日ではなく、一八日であると認められる。原告主張の日数より一日少ないが、その少ない一日がどの日時のものであることは、本件証拠上明らかにすることはできない)が認められ、かつ、前記6認定の事実によれば、原告が甚大な精神的苦痛を蒙つたことは明らかであり、その精神的苦痛を慰藉するためには、金三〇〇万円、右足切断による後遺症を慰藉するためには金七〇〇万円(小計一、〇〇〇万円)が相当であると認めるのが相当である。

8  したがつて、原告は、本件事故により総額金五、一六一万二、四一七円(1一〇万一、〇一一円+2一九万〇、〇〇〇円+3六四万七、六〇〇円+4一三万五、一八〇円+5五六八万六、五四四円+6三、四八五万二、〇八二円+7一、〇〇〇万〇、〇〇〇円)の損害を蒙つたことになる。

9  そして、原告は総額金二、〇〇一万二、〇二三円の損害の填補を受けたことは原告の自陳するところである。

三  次に被告の抗弁等について判断する。

(一)  弁済の抗弁

1  被告らが看護料として金三九万〇、二一四円を弁済したことは当事者間に争いがない。

2  原告は、右弁済にかかる金員については、本訴請求債権から除外されている旨を主張しているところ、本訴請求債権から、被告の弁済にかかる右金員が控除されていることは、本訴の請求原因の記載から明らかであるが、後記認定判断のとおり、本件事故については、原告にも過失があり過失相殺さるべきことは後段において説示するとおりであるから、原告が、被告らの弁済にかかる看護料を本訴請求債権から除外しているといつても、かかることは必ずしも本訴請求に影響を与えないということはいえない。

(二)  過失相殺の抗弁について

1  本件事故の態様について検討を加える。

いずれも成立に争いのない乙第一号証、第六号証、第一三号証、第二六号証、第三三号証に原告および被告会社代表者山中の各供述(ただしいずれも一部)を総合すると、次のとおり認められる。

(1) 原告は、本件事故当時朝日新聞千葉販売所に勤務し、五〇ccの本件原付自転車に搭乗し、新聞配達に従事していた。

当日、原告は新聞(夕刊)を配達中であり、自転車競技会の新聞配達をすませ、竹中工務店(いずれも進行方向道路右側に位置す)に赴くため、千葉市中央港一―一九―六先路上(その道路は幅員八・七五メートル、アスフアルト舗装ずみ、中央部に分離線がひかれている)を、折柄対向車両もなく、道路が閑散としており、かつ、新聞配達のためすぐ右折する関係もあつて、道路センターラインを数十センチメートル超えて西方(海岸)から東方(千葉港)方向に向け時速約三〇キロメートルで直進し、信号機のない丁字型交差点(本件事故地点)に差しかかつたが、右交差点手前約一〇数メートルの地点に至つて、丁字型交差点の右側より本件バスが左折してくるのを発見したが距離が近く突然であつたため急ブレーキをかけることも左方向に避けることもできず、そのまま直進して、被告斉藤の運転する本件バスに衝突した。

(2) 被告斉藤は、ライトバンを運転し、一たん被告会社に立ちより、被告会社社長山中の命令により、海岸方面に赴くべく、時速約三〇キロメートルで本件事故地点の信号機のない丁字型交差点に差しかかつた。

被告斉藤は、左折の指示をし、右側道路からの進行車のないことを確認しただけで左側からの車両を確認することなく、また格別徐行することなく左折を開始し、左折途中で、道路左側からの対向車両(原告の運転する本件原付自転車)がセンターラインを若干オーバーしてくるのを確認し慌てて急ブレーキをかけたが、本件バスの右前部が原告の本件原付自転車の右側中央部に衝突したものである。

この点について、原告は、本件事故前センターラインを超えて運行していない旨主張し、その趣旨にそう原告本人の供述ないし乙第一三、一四号証の供述記載もあるが乙第七号証ないし第一一号証によつて記載されている本件衝突地点スリツプ痕などからみれば、この点の原告の主張は認めがたくその趣旨にそう前掲各証拠はそのまま信用することはできない。

(3) 右認定した事実によると、本件事故は原告がセンターラインを数十センチメートル超えて道路を直進していたことが大きな一因となつていたことは明らかであるが、同時に被告斉藤が交通整理が行なわれていない丁字型交差点を左折するに際し単に右側からくる車両の有無のみを確認し、左側からくる車両の有無について確認しないで漫然と左折をした点にも、自動車運転者としての左折に際しての基本的な注意義務を怠つたことも大きな一因となつていることも明らかである。そして原告にもセンターラインオーバーの過失はあるにしても通常の直進進行中の対向車両のセンターラインオーバーとは異なり、丁字型交差点の左折に当たつての対向車両の存否確認の欠如という被告斉藤の過失は相当大きなものといわなければならない。

2  以上のような見地に立つて、本件事故の過失割合を考えると、原告は五、被告は五と認めるのが相当である。

(三)  治療期間の長期化

被告らは原告の態度等により、不当に診療期間が長期化した旨争うけれども、本件全証拠によつても、かかる事情を窺うことはできなく、かえつて、原告本人の供述によれば、原告は担当医師の指示に沿つて行動し治療を受けていたことが認められる。この点の被告らの主張は認めがたい。

四(一)  そして、原告の蒙つた全損害は前記認定のとおり金五、一六一万二、四一七円であるところ、前記のとおり五対五で過失相殺されるべきであるから、結局、原告は全損害の半額の金二、五八〇万六、二〇八円を被告らに対し損害賠償を請求することがなるにすぎない。

(二)  そして原告は蒙つた損害のうち金二、〇〇一万二、〇二三円について填補を受けたことは原告の自陳するところであり、その他に金三九万〇、二一四円の弁済を受けたことは、前記認定のとおりである。

したがつて、原告は損害賠償を請求しうる債権額金二、五八〇万六、二〇八円のうち金二、〇四〇万二、二三七円について結局弁済を受けていることになるが残額金五四〇万三、九七一円については未だ損害賠償として請求することができるものであるが、これを超える部分は、理由がないというべきである。

(三)  そして、交通事故による損害賠償請求訴訟では損害を請求しうる金額一割に相当する分の弁護士費用を損害賠償として相手方に対し請求することができると解されるから、本件では、本件訴訟の経緯に照らすと金五〇万円の限度で弁護士費用を損害として被告らに対し請求することが許されると解すべきであるが、これを超える部分については理由がなく失当として、棄却さるべきである。

五  以上説述したところによれば、原告の本訴請求中、被告らに対し金五九〇万三、九七一円および内金五四〇万三、九七一円に対する本訴状送達の翌日であることが記録上明らかである昭和五四年九月五日からその完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延利息の支払を求める限度において理由があるから、これを正当として認容するが、右を超える部分については理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担については民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言については同法一九六条を各適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 奈良次郎)

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